パーパス(purpose)とは?企業経営における意味やブランディングとの関係、ミッション・ビジョン・バリューとはどう違うか、わかりやすく解説します

パーパス(purpose)とは?企業経営における意味やブランディングとの関係、ミッション・ビジョン・バリューとはどう違うか、わかりやすく解説します

近年、企業経営やブランディングの世界で、「パーパス Purpose」というキーワードが注目を集めています。

googleトレンド「パーパス」
googleトレンドで見てみるとここ数年で急速に注目されていることがわかる

パーパスとは?わかりやすく一言で

パーパスは、通常の日本語訳ですと「目的」「意図」と訳されます。
しかし、ビジネス用語としてのパーパスは、もう少し別の意味を含みます。

様々な研究者や実践家が、それぞれの訳をあてていますが、最も代表的なのが、「社会的存在意義」です。他にも、「大義」「存在意義」、「志」などの訳があります。

いずれにしても、企業などの組織が「社会においてなぜ存在しているのか」を指す言葉として使われています。

パーパスとは?ミッション・ビジョン・バリューとの違い

経営理念を具体化したミッション、ビジョン、バリュー(MVV)とパーパスはどのように違うのでしょうか。下の表は日本国内の主な実践者や研究者による説明をまとめたものです。

研究者名パーパスビジョンミッションバリュー
佐宗 [2021]自分たちは社会の中でどうありたいのか「組織が目指す理想の状態」を定めるもの「組織の存在意義を定める」もの「組織の構成員が共有する価値観」を定めるもの
斎藤 [2021]「組織がなぜ、何のために存在するのか」を端的に言い表した言葉企業やブランドが「なりたい姿」または「成し遂げたい世界や未来」の宣言パーパスとビジョンを実現するために果たすべきこと企業やブランドが大切にしている「価値観や信条」
斎藤 [2021]✕✕✕のために、我々は存在します◯◯(形容詞)な■■■(名刺)を目指してそれには△△△をしなければなりません常に♢♢♢(形容詞)な姿勢で取り組みます
名和 [2021]What(未来の姿)Why(存在意義)How(共有価値観)
岩嵜・佐々木 [2021]多様なステークホルダーが共存するあるべき世界の姿を三人称的に描いた「大きな船」企業がなりたい姿を一人称的に表現するもの。その企業しか入らないサイズの「小さな船」企業がなりたい姿を一人称的に表現するもの。その企業しか入らないサイズの「小さな船」
伊吹・古西 [2022]人々がその組織の根源的な存在意義に共感する人々がその組織の行動・ベクトルに共感する存在意義や存在価値(パーパスと重なる場合がある)言及なし
山田ほか [2022]今なぜ我々は有るのか将来の夢、なりたい姿実現したい世の中の姿言及なし
山本 [2022]

 パーパスとMVVを比較してみると、MVVが企業単体が主語になっているのに対して、パーパスはより社会的な要素が含まれ、企業以外の第三者の視点が意識されていることがわかります。ただし、ビジョンやミッションの説明にも「存在意義」という言葉が使われていることからも、パーパスを真新しい別の概念として定義しているわけではなさそうです。
 以上のように、パーパスは、社会との繋がりを重視する概念であり、パーパスは経営理念やミッションに取って代わるものではなく、21世紀に適応した表現のひとつと言うことができそうです。実際、パーパスと従来の経営理念やミッションとが重なる可能性があることを指摘している研究もあります(伊吹・古西 [2022]、永井・後藤 [2021])。

パーパスの歴史

 パーパスに対する注目度が高まったきっかけとなる出来事として、2018年の「フィンク・レター」、そして2019年のビジネス・ラウンドテーブルの「企業のパーパスに関する声明」がよく挙げられます(岩嵜・佐々木 [2021])(桜井 [2021])。

「フィンク・レター」とは、世界最大の資産運用会社のCEOラリー・フィンクが世界のCEOに毎年送っている年次書簡です。
その2018年のテーマが「パーパスの意識を持つ(A Sense of Purpose)」でした。

ビジネス・ラウンドテーブルとは、米国主要企業が名前を連ねるロビー団体です。この団体の「企業のパーパスに関する声明」は、株主資本主義からステークホルダー資本主義への移行を訴えたものでした。

また、Facebook(Meta)の創業者マーク・ザッカーバーグも、2017年にハーバード大学で行った講演で次のように述べています。

「パーパスとは、私たち一人一人が、自分以上に大きい何かの一部に拘っていると感じ、そこで自分が必要とされ、率先して役に立ちたいと思える感覚だ」

「(その結果)パーパスが『本当の幸福度』をつくるのだ」

「社会を前に進めるために必要なことは、新たな自身のパーパスを意識することだ」

山田 [2022]

パーパスの源流をたどると、ジム・コリンズ、ジェリー・ポラス「ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則」に行き着くという研究があります。同書には「ビジョナリー・カンパニーの基本的な目的(basic purpose)、つまり、存在理由(its reason for being)は」(Collins,Porras [1994]p.8 ,邦訳 p.13)という記述があるのです。

この1994年以降、特にリーマンショックが起きた2008年以降に、パーパスに関する論文、記事が増加してきています(図1)。

「オックスフォード大学とアーンスト・アンド・ヤングによれば、1995年から2016年の間に、パーパスについての公開討論は5倍に増えた」との言及があります(Serafeim,Gartenberg [2018])。

図1
オレンジ線:企業/組織パーパス グレー線:企業/組織サステナビリティ
(EY Beacon Institute [2016])

パーパスは、経済産業省が行っている研究会のレポートでも度々触れられています。
サステナブルな企業価値創造のための長期経営・長期投資に資する対話研究会(SX研究会))

パーパスは作成ではなく発見するもの

「パーパスは作成するものではなく発見するもの」だと表現したのは、コンサルティング会社のアイディール・リーダーズ株式会社永井恒男さんと後藤照典さんです。

パーパスの話題になると、「どうつくればよいですか?」という話になりがちです。しかし、パーパスは作成するものではなく、 「発見」 するものだと筆者は考えています。 最近は、パーパスに注目が集まっていますから、 コピーライティングの手法を使って新規に作成するケースをよく目にします。 しかし、本来パーパスはすでに社員が体現しているものや、自社に根付いてるものです。 ゼロからつくりあげるのではなく、「そこにあるものに気づく」という「発見」が大事なのです。

永井恒男,後藤照典 [2021]「パーパス・ドリブンな組織のつくり方 発見・共鳴・実装で会社を変える」日本能率協会マネジメントセンター

パーパスの作成プロセスは、様々な著作で言及されています。本サイトでは、それらをまとめていますので、これから自社やご自身のパーパスについて考えたいという方は、そちらもチェックしてみると良いかもしれません。

パーパスと、アイデンティティ、レゾンデートル、クレドとの違い

パーパス、アイデンティティ、レゾンデートル、クレドなどの言葉は、企業の目標や方向性を示す重要なもので、微妙に異なる意味を持っていますが、実際には同じような用途で使われていることが多いです。これらの言葉を理解し、適切に活用することが、企業経営において重要であるとされています。

詳しくは以下の記事を参照してください。

パーパスが注目されている時代背景

企業経営において、パーパスが重要視されるようになった背景には、ボストン コンサルティング グループ [2021]が挙げたように4つのパラダイムシフトがあります。①企業目標、②戦略策定、③組織、④人材マネジメントの領域です。

詳しくは以下の記事を参照してください。

その他にも、以下のようキーワードをまとめていく予定です。

パーパスと経営戦略、企業理念、目標との違いは?

パーパス マーケティング

パーパス スタートアップ

参考文献

ジム・コリンズ,ジェリー・ポラス [1995]「ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則」日経BP社

EY Beacon Instituite [2016] “The state of the debate on purpose in business”

セラフィム,ジョージ、ガーデンバーグ,クローディン [2018] 「パーパスは収益を左右するのか」DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編『PURPOSE』156-159
(初出:”The Type of Purpose That Makes Companies More Profititable” HBR.org, October 21,2016 邦訳:ダイヤモンド社『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2019年3月号)

丹羽真理 [2018]「パーパス・マネジメント」クロスメディア・パブリッシング(インプレス)

森一彦 [2020]「NIKEでのブランド概念の変遷とパーパスの役割 : NIKEの時系列変遷を辿り,デジタルトランスフォーメーションでのブランド概念を論考する」関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科『ビジネス&アカウンティングレビュー』25 21-42

桜井徹 [2021]「株主資本主義批判としての企業パーパス論 : 意義と限界」国士舘大学経営学会 『国士舘大学経営論叢』10 (2), 27-55

佐宗邦威 [2021]「組織の『存在意義』をデザインする」DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー編集部編『PURPOSE』31-63
(初出:佐宗邦威 [2019]「パーパス・ブランディングを実践するために組織の『存在意義』をデザインする」ダイヤモンド社『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2019年3月号)

名和高司 [2021]「パーパス経営: 30年先の視点から現在を捉える」東洋経済新報社

岩嵜博論,佐々木康裕 [2021]『パーパス 「意義化」する経済とその先』NewsPicksパブリッシング

永井恒男,後藤照典 [2021]「パーパス・ドリブンな組織のつくり方 発見・共鳴・実装で会社を変える」日本能率協会マネジメントセンター

齊藤三希子 [2021]『パーパス・ブランディング ~「何をやるか?」ではなく、「なぜやるか?」から考える』宣伝会議

ボストン コンサルティング グループ [2021]「BCG 次の10年で勝つ経営 企業のパーパス(存在意義)に立ち還る」日本経済新聞出版

山田敦郎,矢野陽一朗,グラムコパーパス研究班 [2022]「パーパスのすべて-存在意義を問うブランディング」中央公論新社

伊吹英子,古西幸登 [2022]「ケースでわかる 実践パーパス経営」日経BP

鈴木貴大 [2022]「企業のパーパスとコーポレート・ガバナンスの関係-持続可能な発展のための意義と課題」明治大學商學研究所『明大商學論叢』104(3)

山本洋輔 [2022] 「小規模出版社の事業継承期におけるパーパス規定のための自組織探索の作用」Mode2 Lab『Mode2 Lab Journal』2022年9月 Vol.1