「パーパス」という言葉がビジネスの世界で注目されるようになっています。
パーパスは、「社会的存在意義」とも訳され、企業が「なぜ存在しているのか」「なぜ活動しているのか」を言葉にすることです。
今の社会はいろんなモノやサービスがあふれ、人々がそれぞれ違う個性を持っているということがよくわかるようになってきました。
そのため商品やサービスは、ただ品質が良いだけ、安いだけではなく、企業が多様性をどのように考え、どのような価値観のもとで扱っているのかが大切になってきています。
そして企業のパーパスは、経営層が決めるのではなく、組織を作るすべての人の思いから見つけ出すべきだと言われています。
この記事では、「ケースでわかる 実践パーパス経営」という本から、自分の個人パーパスをどうやって言葉にするかを学びます。
本書は筆者らが戦略コンサルティング、エグゼクティブ・コーチングの現場で、経営トップ層から「何かが満たされない」といった声が多く聞かれるようになったことがきっかけになってまとめられたものです。
パーパスが経営の鍵となっている企業や組織の経営層インタビューを中心に構成されています。
本の後半、第8章に「実践に向けたアプローチ」の一部を引用し、企業のパーパス策定のプロセスをまとめました。
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STEP1 活動のグランドデザイン
本書では、経営理念やミッション、バリューなど先立って何かしら経営の指針となるものが言語化されている状態がすでにあることが前提となっています。一定規模の会社であればこのような状況であることが多いと思います。
そのため、「再定義」という言葉が使われています。
パーパスの再定義にあたって、すぐに「言葉の検討」に入らないこと、その準備段階が重要だといいます。
その前にやることがあるってことですね。
準備段階がないために起こるありがちな失敗として、以下の2点を挙げています。
- 手段が目的化してしまう
- ある期限までにパーパスを作ろうとすると、言葉の検討に重きが置かれてしまい、完成しても浸透しない
- 共感が得られない
- 経営陣が作ったものの、社員がほぼ無反応
- 現場の社員との温度差があり、日常の業務と別物になってしまう
これらを避けるため、以下のプロセスを踏むと良いでしょう。
1-1 課題の整理、およびパーパスの影響範囲の確認
まずは経営メンバーで、組織内の現状認識や課題を整理するところから始めます。
ここで有効なのが、『7つの習慣』でも提唱されている時間管理マトリクスによる「緊急度」と「重要度」の整理です。
これによって、これから検討するパーパスが
- その組織にとってどれくらいの「緊急度」と「重要度」を持つものなのか
- その他の経営課題とどのように関連するのか
- その影響範囲はどの程度なのか
について、共通認識を持つことができます。
おそらくは第二領域(緊急ではないが重要なもの)になるのではないでしょうか。
そう、緊急ではないのです。
パーパスがないと会社経営が立ちいかなくなるわけではない。売り場に商品が供給できなくなったり、広告をストップさせたりするものではない。
しかし、企業の今後を考える上で重要なものである。
経営メンバーがこれからつくるパーパスについて、こういった共通認識を持つことで、パーパスを「絵に描いた餅」状態にさせないようにすることになるのです。
なお、このマトリクスは、パーパスを言語化するときにメンバーに重要性を共有するためにも役立ちます。
1-2 波及させたい影響・効果・変化の可視化
パーパスの影響範囲が確認できたら、次はパーパスを再定義することで組織に波及させたい影響、効果、変化を可視化する。それによって、一時的なイベントではなく、数年にわたり影響を持続させることにつながる。その結果、組織にパーパスが真に浸透していく。
「いつの時点で、どのような状況・状態を作り出したいのか」を描くために「未来年表」を作成する。
- 未来年表の作り方
- 横軸に時間
- 最終ゴールは最低でも10年先以上が推奨。直近に近づくほど、時間軸の目盛りの間隔を短くする
- 縦軸にタスクゴールとマインドゴール
- タスク :何をつくって、何を決めるか
- マインド:社員の気持ち、意識、組織風土、コミュニケーションスタイル、マネジメントスタイル
- これらがどのような状態になっていると良いのか
- ふせんなどで実現したい状態を文字にして張り出す
年表を作ることで、パーパスの再定義にどのようなコアメンバーが参加するべきかが見えてくる。から
1-3 活動の核となるコアチームの設計
パーパスの再定義・浸透させていくためのコアメンバーを選びチームを組織する。経営陣の関与の方法についても確認する。チーム編成には以下の3パターンが主に挙げられる。
- 経営トップ主導型
- 経営トップが積極的に関与する
- 経営トップ指示型
- 経営トップが立ち上げの指示をしメンバーが実行主体となる
- 経営トップ見守り型
- 経営トップは活動開始時、終了時、途中に数回の対話による相互理解の場を設ける。活動主体のメンバーの中に、内発的動機を持つメンバーが一人以上いることが活動の成否を分ける。
<ステップ1の実施を確認するための質問 >
引用元 p237
・パーパスの言語化が完了した後にすべきことが、 ステークホルダーで合意できているか
・パーパス活動を立ち上げることで、どんな成果が得たいのかが合意できているか
・向こう3年以上の活動の素案がイメージできているか
・未来年表の内容には、定量的なもの以外に定性的なものが多く書かれているか
・組織風土や社員の意識、 マインド、コミュニケーション、マネジメントスタイルに言及されたものがあるか
・未来年表に書かれた内容を見て、 実際の具体的な情景を思い浮かべることができるか
(複数人で未来年表を作成する場合)
・自分以外の人が書いたものに対して、理解と共感を得られているか
・未来年表の内容が、現在からの未来予測ではなく願望に基づいて書かれているか
・直近1年間の内容を見て具体的なプロジェクト内容がイメージできるくらい詳細に描かれているか
・未来年表の内容で、パーパスに共感している、 パーパスを実感して仕事をしている、 自分事になっている、 といったことが含まれているか
STEP2 パーパスの再定義
このステップの目的は以下の2つである。
- 過去から現在を振り返り、組織に潜在しているパーパスを発掘すること
- 現在から未来に向かって社会環境を意識することで社会から見た自社のパーパスを言語化すること
この際にありがちな失敗を以下に挙げる。
- 正解探しをする
- 常に「パーパスを再定義するため」という目的を忘れないようにすること
- 普段から「正解を見つける」「答えを探す」思考アプローチに慣れていると陥りやすい
- 絵に描いた餅となる
- 言葉として言語化し、伝えることに重きがおかれてしまうことがある
- 聞こえがいい表現になるだけではいけない
- 日常の中で目にした時に実際の業務と紐づいていて共感・共鳴されるものである必要がある
- 独りよがりなものとなる
- 社会に対する関心や理解が少ない状態でパーパスを再定義しないこと
- 大事なのは”社会において”どのような存在意義があるか
- 自社の業界だけではなく、社会全体のシステム、法律、文化、風習に関心を持つこと
これらを避けることは容易ではないが、「パーパスの発掘→個人のパーパス定義→組織のパーパス言語化」という順で進めると良い。
2-1 パーパスの発掘
まずは自社の歴史を振り返る。
- 現在の理念、ミッション、バリューなどの確認
- これらを定義した頃のことを知っている人に話を聞く
- 会社の歴史を振り返る
- 社史や企業年表などを用いる、OB/OGに話を聞く
2-2 個人のパーパスの定義
企業パーパスは組織上位層から順に社員に伝わっていく。その際に、経営トップメンバーと組織のパーパスが重なっていると熱量を持って伝えていくことができるため、個人のパーパス(マイパーパス)の定義も重要となる。
個人のパーパスと組織のパーパスの関係
個人のパーパス、マイパーパスに共鳴していない場合、トップからおりてきたパーパスはただの指示命令になってしまう。パーパスという「言葉」が社員にとって身近なものであれば、組織内で本当の意味でパーパスが息づくことになる。
パーパスは、個人にとって「毎日、身につけておきたいお気に入りのもの」である。
個人のパーパスとは? 6つの特性
◯◯である | |
---|---|
観点 | 第三者的な観点をより強く含む (周囲や社会に対してどのような影響をもたらしたいか) |
定義の方法 | 人生・生活・仕事で発揮されてきたものであり、発掘するもの |
重視する点 | 公私共に、日常の言動・行動で体現されている |
差別性 | 他の誰でもない唯一無二である (その人らしさがはっきりとわかる) |
共感・共鳴の対象 | 自分自身がしっくりきていること |
動き | 日常や人生における意思決定の拠り所 (業種・職種にあまり依存しない) |
個人パーパスの定義の方法
個人のパーパスを考えるにあたって、「役割の自分」と「素の自分」を分けて考えることが重要である。会社で求められる役割に照らし合わせながらの正解探しに陥らないようにするためである。
個人のパーパスと組織のパーパスが真の共感・共鳴を起こすためには、以下のような条件を満たす必要がある。
仕事カテゴリ | プライベートカテゴリ | |
役割の自分 | A:役職に基づき求められる自分 | C:家族や地域で求められる自分 |
素の自分 | B:独自の価値観・特性を持つ自分 | D:他者の目を気にしない自分 |
個人のパーパスを定義する場合は、特に「素の自分」×「仕事カテゴリ」(B)の視点を大事にすることが重要である。こうすることで、たとえ居場所が変わっても大きく変わることのない自分の個性・存在意義を明確にすることができる。例えばライフステージが変わった場合、転職をした場合などでも使えるため、自分ごと化ができ、積極的な関与が期待できる。
以上を踏まえ、具体的な方法を挙げる。
- 自分の人生を振り返る
- 幼少期からの印象的な出来事、感情を揺さぶられたこと、尊敬する人物、大きな意思決定など
- 客観的に個性や個人の特徴を割り出す診断ツールを活用する
- ストレングス・ファインダーなどを利用する
- 他者からのフィードバック
- 複数の他者に自身を観察してもらい、その人らしさを言ってもらう。コーチングなどを利用する
個人のパーパスの定義に完成はない点にも注意する。
2-3 パーパスの言語化
①個人的に願う理想の社会を思い描く
個人のパーパスにもとづいて、自分なりの理想の生活環境・社会環境を言語化する。ここから始めることで、それを達成するためには社会のシステムや文化とどのように関わっていくべきなのかが実感を伴って見えてくる。
あえて少し大げさな表現を使うと、 “ほとんどの人は、日常生活において、自分の目に見える範囲、そして今この瞬間のことだけを考えて判断したり行動したりしている”。 しかし、人類全員が目の前の短期的なことだけに意識を向けてその場その場での選択だけを繰り返した場合、 理想的な社会の実現には近づくことは難しい。 人間が自然体で生活をしていると、長期的なことを考える視点よりも短期的なことを考える視点の方が強く、そして、世の中全体を考える視点よりも、今、目の前、自分の身の回りだけの部分的な世界を見て判断する傾向が強い。
引用元 p266
1 自分の視座の現在地を知る:「視座の輪」で確認する
社会的な視点を踏まえて、個人のパーパスと組織のパーパスの接続を目指すために、「視座の輪」を使用する。
2 自分の身近なテーマで社会システムを見極める
近年、「社会課題を解決します」と宣言する企業が増えている一方で社会システムについて十分な調査・検討がされていないケースが存在する。この場合、本質的ではないものにリソースを割いてしまうといったことが考えられる。
本当の意味で価値のあるパーパスといえるためには、社会システムをよく見極めたうえで、自社の最適な関わりを見出し、そこへ価値を提供をする必要がある。
3 自分が心から願う理想の状態を可視化する
この可視化の作業は大きく2つに分けられる。
- 理想の社会を思い描く
- あくまで個人パーパスや個人的価値観に基づいた、自らが願う理想の社会を思い描く
- 10年後くらいのことを考えてみる
- 理想の生活を描写する
- 1で理想の社会を創造したら、その時期のある一日の理想の日記を描写してみる
- 「素の自分」が目を覚ました瞬間から眠るまでを詳細に描き出す
- 五感で感じられること、思考や感情などを言葉にする
- 社会インフラや法律、文化などにも言及する
コアメンバー個々人で以上のようなことを考えたあと、お互いが考えたことを共有する。それによって、個人のイメージから組織のイメージを作り上げていくのである。
個人が自らのパーパスや価値観に沿って長い時間軸で思い描いた理想の社会イメージは、多くの場合、他のメンバーにとってネガティブに感じられたり、否定されたりするものにはならない。なぜならば、人は、「現状に対してもっとこうなってほしい」「こうなったらよい」という未来に対するよりプラスの変化やより良い社会に対する思いを根本的に持っているからだ。
引用元 p275
②理想の社会の実現に向けた自社の関わり
「素の自分」で個人的に願う理想的な社会を思い描いたら、次はその社会の実現に向けて、自社がどのように関わっていけるのかを探る。
- 理想の社会にするにはどんな変化が必要か
- 理想の状態が実現される必須条件とその”始まり”となるモノ・コトを探る
- この変化、進化、新化の対象は以下のような感じ
- 社会制度、インフラ、政治、法律、教育
- 思想、倫理観、文化、家族観
- 個人と企業組織の関係、国家間の関係
- その変化には、自社はどんな関わり方ができるか
- 個人のパーパスを描いた自分自身
- ともにパーパスを検討しているメンバー
- 自社の全リソース
- これらが時代の変化、進化、新化にどう影響するか
③”社会に与える影響”や”提供価値”を”社会的存在意義”として再定義
ここまで言語化されてきた文言を、社会の視座で見たときに、自社は「どんな価値を提供していると考えられるか」「どんな存在意義があると考えられるか」を捉え直す。
ポイントは、「パーパスが持つ6つの特性」に沿って文章表現を決めていくこと。
- どれくらいの長さか
- どこに対象を絞るか
- 製品・サービスの特徴が含まれるか
- 社会へのインパクトがあるか
これらも重要な視点だ。
STEP3 パーパスをどう経営に落とし込むか
- パーパスの組織全体への波及
- 経営上の意思決定プロセスへの組み込み
- 社会のステークホルダーとの対話と関係醸成
伊吹英子,古西幸登 [2022]『ケースでわかる 実践パーパス経営』日経BP
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