パーパスの作り方:リサーチとワークショップで兆しを発見する『パーパス 「意義化」する経済とその先』より【パーパス作成特集①】

パーパスの作り方:リサーチとワークショップで兆しを発見する『パーパス 「意義化」する経済とその先』より

パーパスは組織を束ね、あるべき姿に導く北極星だ。

岩嵜博論,佐々木康裕 [2021]『パーパス 「意義化」する経済とその先』

本書では、パーパスが求められている時代背景、パーパスを規定し活かす手順、大企業の事例、パーパスが広まったあとの未来まで網羅的にまとめられている。

中でもパーパスの規定手順に焦点を当てて紹介していきたい。

株主からステークホルダーへ

まず、パーパスが必要とされている今の社会について。様々な要因により、企業は利益だけを追求するだけでなく、社会にとって良いことをする責任を持つことが求められるようになった。

それは株主第一からステークホルダー第一への移行である。

より多くの人の共感を呼び、彼らを巻き込むことでその企業の存在意義は増してくる。そのために、自組織の行動の基準となるような価値観の言語化が必要となる。

パーパスの規定プロセス

STEP1: 自組織の探索

なぜ自組織の探索を行うのか why

パーパスは、自組織のDNAと社会からの期待が重なるところから生まれる。

STEP1では、自組織のDNAに焦点を当てる。

組織内へのステークホルダーへのインタビュー、ワークショップを通じて、パーパス規定の鍵となる要素を抽出する。

自分たちのことは自分たちが一番わかっているように思えるが、組織は顧客や株主のために日々業務を行っているので、自分たちのことを考えることに時間を使っていないことに気づく。

だからこそ、あらゆる手段で自分たちのことを探索する。

どのような方法で行うのか how

関係者へのデプスインタビューを行う。最初は表面的な回答に留まるかもしれない。その場合は、WhatやHowではなくWhyに注目して深堀りをする。
あとでワークショップを行うため、書記役を立ててキーワードを抽出し箇条書きにしておくとよい。

デプスインタビュー

誰に話を聞くか who

  • 組織のトップ
    • まずはオーナーである組織のトップに話を聞く。しかし、トップの発言がダイレクトにパーパスに反映されるわけではない。トップも関係者のひとりにすぎない。
  • 事業部門組織のリーダー
    • 大きな企業の場合、部門ごとに競争優位性や価値観が異なる可能性がある。特に広報やIRの担当者は常に組織外の人々と接する中で組織のことを客観的に把握できていることが多い。

どんなことを明らかにするか what

  • 歴史的資産
    • 組織の起源に眠っている
    • 創業の精神、創業者の言葉などから「なぜ存在するか」のヒントを探す
  • 強み・競争優位性
    • 組織特有の資源(リソース)や能力(コンピテンシー)
    • 自分たちでは気づかないことが多いので外部からの視点を取り入れる工夫を
  • 大切にしている価値観
    • 組織の行動規範・カルチャー
    • 重要な局面で何を重視して意思決定をしてきたか

コンピテンシー

STEP2: 社会の探索

なぜ社会の探索を行うのか why

パーパスは自分たちだけで成立するものではない。自組織の周辺で起こっている社会の変化を捉え、要素を抽出する。既存事業の業務の効率化ばかりに目がいきがちだが、変化に富み不確実性の高い時代においては、社会の変化を十分に観察し、自組織を変化させ続ける必要があります。

ティール組織

組織の周辺には3つの情報がある。

  • 組織がすでに知っている、既知のこと
  • 知らないことを認識している、未知のこと
  • 知らないことすら認識していない、未知のこと

ジョハリの窓

中でも3つめの「知らないことすら認識していない、未知のこと」が重要。そのためにリサーチを行う。

how

自組織の周辺で起こっている社会の変化について、デスクリサーチを行う。情報収集したあとは、ワークショップを行って整理する。

書籍の記述、メディア記事などを収集し、要点をまとめる。その際、なぜその記事が重要だと思ったか、組織と社会のあり方に対する示唆は何かを記載することが重要。

事実だけを羅列するのではなく、社会の変化やそれに伴って自組織周辺にどのような影響があるかといったレンズを通して情報を収集することで、自組織の存在意義を明らかにするヒントとして位置づけるられるようにする。

what

「3つのP」の視座で書籍やメディア記事のリサーチを行う。網羅性を担保するために100〜200件程度のボリュームを目安にする。

  • Problem 社会課題
    • 気候変動、資源、ダイバーシティ、格差、貧困、飢餓
    • SGDs(持続可能な開発目標)も目安にする
    • 社会の変化の兆しを見つけ論点を深堀りする
Problem 社会課題の例

気候変動問題→再生可能エネルギーの活用→洋上風力発電→エネルギー効率+機器の建設、メンテナンス、専門人材育成が必要となる→地域経済への波及効果

ここまで深堀りができると、再生可能エネルギー問題から地域の循環型経済まで論点を広めることができ、自組織が関わるべきコトへの視点を増やすことができる

  • People 生活者
    • 新しい世代の台頭
    • 価値観や動機の変化
    • それらはどのように生まれているのか
People 生活者の例

若年層でリユースへの抵抗感がなくなっている
→「社会課題に高い意識を持つ生活者が増えている」という価値観の変化
その価値観は、消費や職業選択などの意思決定にどのような影響を及ぼすかにつなげて考える。

ニュースなどの事象に触れたとき、価値観という形に抽象化し、他の事象にどう影響があるのかを想像できるようにするとよい。

  • Policy 政策・規制
    • 政策・規制によるルールの変化による影響は大きい
    • ニュースメディアやgoogleアラートにキーワードを設定し活用する
Policy 政策・規制の例

各国政府が電気自動車の普及目標を政策化→自動車関連産業は大きな影響を受ける

STEP:3 統合と言語化

1,2で抽出された要素を統合して、パーパスの幹となるコンセプトを作る。そのコンセプトをもとに、ステートメントを明文化する。

  • コンセプト…パーパスの幹となるキーワード
  • ステートメント…キーワードを数行で文章化したもの

このとき大切なのは、パーパスが多様なステークホルダーの共感を呼ぶ大きなストーリーになっているかどうかだ。パーパスは自組織のためだけの「小さな船」ではなく、あるべき姿をステークホルダーとともに目指すための、「大きな船」であるべきだ。

how

以下のようなワークショップを行う。

自組織の探索の整理

メモを参考に、歴史的資産、強み・競争優位性、価値観などの要素をポストイットに書き出す。インタビューごとに10〜20のポストイットができるとよい。

書き終えたら、要素が近しいもの同士でグルーピングし、グループのタイトルをつけていく。

社会の探索の整理

デスクリサーチのタイトルをそのままポストイットに書き出し、グルーピングする。情報収集の段階では3つのPに分けてリサーチしたが、ここでは領域を意識せずグルーピングする。

コンセプトに統合する

自組織と社会のキーワードが出揃ったら、両者が共存する言葉を考えてパーパスのコンセプトを導き出す。どちらかを優先したり、足し合わせるだけではないかもしれない。

自組織と社会、どちらにも無理なくプラスになる言葉を「発見」する。

永井翔吾『創造力を民主化する』の「統合思考」が役に立つ

ソニー「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」

組織のDNAである「テクノロジーの力で人々を豊かにする」側面と、「人間らしく前向きに生きていきたい」という社会のニーズが、「感動」という言葉にうまく統合されている

パーパスを言語化する

コンセプトが整理できたら、パーパスの明文化(ステートメントの作成)を行う。パーパスは、自組織だけでなく外部から見てその組織の固有性を際立たせ、理解を促し、関心を引き寄せ、行動を呼び起こす言葉である必要がある。

そのために、以下の要素を感じられるように明確な方向性をわかりやすく表現する。

  • 関心
  • 理解
  • 納得
  • 共感
  • 行動

パーパス明文化のチェックポイント

  • インスピレーションに溢れるかどうか:発想や行動の起点
    • アイデアが思い浮かぶ、何かやってみようと思える、人を巻き込みたくなるかどうか。
  • 本質的かどうか:Authenticity(真正性)
    • 時間を超える普遍性、亜流や派生ではない、その組織独自のものになっているかどうか。

STEP:4 具現化

パーパスの明文化ができたら、具現化していく。組織内外のステークホルダーが理解、共感、行動できるようにわかりやすい形で共有する。

大きく分けると、グラフィックや動画化などのビジュアル化とワークショップなどの体験に分けられる。

ビジュアル表現

パーパスを共有するサイトやページを作成し文章やイメージで表現する。

体験・イベント

パーパス、ステートメントを発表する場を作り共有する。

パーパスの具体化がしづらいのであれば、社会に対して表現がしづらいパーパスになっているということ。そうなった場合は明文化に立ち戻る必要がある。

おわりに

パーパスは作って終わりでは意味がない。自組織内外で共有し、普段の業務の判断基準となる必要がある。そのために、パーパスの規定プロセスに全員が参加することで、メンバーは自分ごと化する。そうすれば、同じ問題意識や方向性に基づいて、自律的な組織を目指すことができる。

パーパスを起点にすることで、組織は動的かつ有機的になる。

参考文献

岩嵜博論,佐々木康裕 [2021]『パーパス 「意義化」する経済とその先』NewsPicksパブリッシング